家具屋さん

  小さいころ娘は作文に父親の仕事は「家具屋さん」と必ず書いていた。
中学校、高校と学年が上がるにつれ、父親は家具作家だということも認識
していたらしいが、それでも公には父親の職業は家具屋さんだった。
 耳慣れない人には「なにそれ、なにか書く人なの?」といわれることもある
ので、家具屋さんというほうが手っ取り早くてよい、ということでそう言っている
のだと思っていた。しかし事実は想像を超えていた。
 
 春に娘の学校の友達が家に遊びに来た時のこと。娘にとってはまったく
珍しくもない父親の仕事を友人たちは目を丸くしながら興味深く見ていた。
「〇〇ちゃんのお父さん、家具屋って言ってたけど家具屋じゃないじゃん」
 あとに学校で再開した友人からそう言われて娘は混乱したらしい。
そのことを娘から聞いた私も娘は何に混乱したのかわからないことに混乱した。

 我が家は当たり前のことだが家具製作の仕事を始めて以来、家具屋で家具を
買うなどということは一度もない。だから家具屋に行くこともなかった。娘の混乱は
どうやらそのへんにあるらしい。生まれて以来、一度も家具屋に入ったことのない
娘にとって町に家具屋さんという店が存在していることを知らなかった。すべて家具
というものは自分家のようなところで生まれているのだと思っていたようだ。だから
当然の職業として「父は家具屋さん」と言っていたらしい。
 
 私がそれを聞いて唸ったのは言うまでもないこと。まぁ、確かに娘の理屈ももっと
もなことで、すべてわかっている自分たちにとっては、改めてその違いを教えるまで
もないと思っていたがとんだ思い違いで、環境が子供に与える影響というものを改
めて考えなければいけないことを思わされたハプニングだった。

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